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何卒を「なにそつ」と読んだ新人さん

文 | 中野 みのりこ

 某通信販売系コールセンターで、採用した新人オペレーターの

デビュー判断のためのロールプレイングを担当した時のこと。

 

私が担当することになった新人オペレーターさんは20代後半

の女性。

 

服装はビジネスカジュアルとしながらもかなり自由なセンター

であったが、ジャケットを羽織るなどきちんとした印象の持ち

主で、研修ルームで向き合った瞬間に好感をもったことを覚え

ている。

 

このセンターには複数のテレマーケティング企業が人材を派遣

しており、各社で採用された新人は、本人の雇用主である所属

企業ではなく、自社「以外」のテレマ会社のマネージャーが

デビュー判断をするルールとなっていた。

 

もちろん、他社のオペレーターさんだからと言って意地悪など

はお互いに絶対にしない紳士的な空気のある素晴らしいセンター

であった。

 

今思えばクライアント企業様の風土によるポジティブで明快な

雰囲気の効果であったろう。それがこのセンターの様々な場面

で発揮されていた。

 

さて、そのロールプレイングは実際の入電を想定したやりとり

で、私は通話相手の役だ。

 

ロールプレイングも終盤に差し掛かり、いよいよ最後の法令遵

守のためのガードトークに差しかかった。ここまでスムーズ。

 

たどたどしさはあるものの、一生懸命さが伝わる話しかただ。

これなら独り立ちしてもきっと大丈夫、良い人材を採用したX社

さんナイス!などと心の中で呟きつつ進めていた。

 

ところが。

 

スクリプトにある「何卒」(なにとぞ)の部分を、彼女は

「なにそつ」となんの迷いもなく読み上げた。

 

聞き間違えたかなと、ロールプレイング終了後のフィードバック

の最後に本人に確認したところ、やはり読み方を誤解理していた。

 

大学卒業後に就職した最初の会社を退職しての入社だというから、

社会人経験も数年あるはずだ。

 

何より、このお決まりのスクリプトの文言を、このデビュー判断

まで何回も繰り返し、研修講師やSV、自社のマネージャーさんと

やっているはずだった。

 

それは、ここに至るまでに誰も注意したり、正しい読み方を教え

るということをしなかったということを表していた。

 

他社さんのオペレーターさんであり、一瞬迷ったが、この可愛い

彼女が今後ずっと恥をかくことの方がよろしくない。

 

お客さまだって気になるはずだし、クライアント企業の評価に

関わることである。

 

私は正しい読み方をお伝えした。

 

彼女は「どうして誰も教えてくれなかったのでしょうか!」と

戸惑いを見せた上で、

 

「ここでわかって本当によかったです、ありがとうございます」

というようなことを笑顔で言ってくれ、無事にロールプレイング

を終了しデビューしていった。

 

褒めることはお互いに楽で一見平和的に見えるし、褒める側も

気持ちがいい。

 

注意する、叱る、そういう場面でこそ育成の質が問われるように

思う。

 

状況や相手により伝えかたを変えなければならないし、なかなか

ここの感覚が難しい。

 

こちらの人格をかけて対峙すべき場面もあれば、淡淡と事実ベース

で客観的に伝えるべき時も多い。

 

コールセンターは様々なバックボーンを持つ人材が入り混じった

職場だ。言わなくて当然の共通認識であるという先入観を捨てて

伝えるほうがうまくいくことがある。

 

今回の「なにそつ」は、きっとみんな何となく注意しにくさを感

じて、本人に言えずにここまで来てしまったと思われ、その気持ち

はよく理解できる。

 

だらしないが自分じゃない誰かが注意してくれたらいいなと思う

ことは私もよくある。嫌われたくない。

 

注意しやすい人、しにくい人というのもどうしてもあるのが人間。

相性もある。

 

でもでも、注意する、叱る役まわりを担ってくれているSVがどの

センターにもいるように感じる。

 

そういうSVこそ、マネージャーが支援してあげてほしい。

今あなたのセンターがうまくいっているのは、もしかしたら

そのSVのおかげかもしれない。